欧州連合商標(EUTM)出願とは、欧州連合知的財産庁(EUIPO)に対して、1件の商標登録出願をすることにより、EU加盟国全体をカバーする商標権を取得することが可能な出願です。
●特徴
✓EUTMの登録の効果は、EU加盟国全域に及ぶ
✓EUTMの出願時には、絶対的拒絶理由(識別力の有無、公益上の登録禁止理由の有無)のみ審査される
✓相対的拒絶理由(他人の先行商標との類否)は、異議申立てがあった場合のみ審査される
✓EU加盟国の中で、1ヵ国でも拒絶理由があるとEUTM全体が拒絶される
●権利の及ぶ国(2021年2月現在のEU加盟国は27ヵ国)
アイルランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク
※外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/map_00.html
●保護対象
Word mark | ![]() EUTM 002288355 |
![]() EUTM 000033159 |
Figurative mark / |
![]() |
![]() |
Shape mark / Shape mark containing word elements |
![]() |
![]() |
Position mark | ![]() EUTM 001027747 |
![]() EUTM 008586489 |
Pattern mark | ![]() |
![]() |
Colour (single) mark |
![]() (Class 30 Chocolate) |
![]() EUTM 002087005 |
Colour (combination) mark | ![]() EUTM 000463174 |
![]() EUTM 003286614 |
Sound mark | Sound EUTM 017592031 |
![]() EUTM 001480805 |
Motion mark | ![]() |
![]() |
Multimedia mark* | ![]() EUTM 017451816 |
|
Hologram mark |
![]() EUTM 012383171 |
![]() EUTM 002559144 |
*Multimedia mark:音と映像を組み合わせた商標
●出願から登録までのプロセス
① 欧州知的財産庁(EUIPO)に出願
※代理人
EU内に住所、営業所又は現実の生活拠点を持たない者は、代理人を通じて手続きを行う必要がある。
② 方式及び絶対的拒絶理由について審査
※サーチレポート
・ EUIPOは、他人の商標との類否は審査しないが、先行するEUTMの調査を行う。サーチレポート(EU Search Report)は、請求のあった出願人と先行商標の権利者に送付される。
・ オプションで、出願人による請求と調査手数料(EUR 72)の支払いにより、商標調査制度を採用している加盟国(チェコ共和国、デンマーク、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア)で先行商標調査が実施され、サーチレポート(National Search Report)を得ることができる。このサーチレポートは、特定の国だけを請求することはできず、また出願人にのみ送付される。
③ 絶対的拒絶理由がある場合は、その理由を通知。意見書・補正書等の提出の機会を付与
※補正可能な範囲
指定商品の削除や範囲を限定する補正のみ可能。商標の補正は、軽微なものでも認められない。
④ 絶対的拒絶理由がない場合は、公報に掲載して出願公告
※異議申立
・ 出願公告の日から3か月、第三者に異議申立て期間が付与される。
・ 先行商標の権利者は、相対的拒絶理由を主張して異議申立てをすることができる。
・ 審査官による審査が始まる前に、当事者間の交渉期間(クーリングオフ)が設けられる(最大24か月)。
⑤ 異議申立がなかった場合、又は、異議申立があっても審査の結果登録可と判断された場合、商標登録
※存続期間
出願日から10年。10年ごとに更新可能。
●その他EUTM特有の制度
✓ EUTMの登録が拒絶された場合、加盟国各国における国内商標の出願に移行できる。この場合、EUTMの出願日は各国での出願日として維持される。
✓ EUTMの権利者が、ある加盟国でEUTMと同じ内容の国内登録を有する場合、その国内登録による利益(シニオリティ)を主張することで、以後EUTMのみでその国内登録を維持することができる。
✓ 登録後5年間の継続的な不使用は、第三者による登録取消申立の対象となる。EU加盟国のうち一国ででも真正に使用していれば、取消を免れることができる。
●EUTMのメリット・デメリット
メリット
・ EUIPOに対する1つの出願で、EU加盟国の全てをカバーする商標権を取得することができる。そのため、通常の各国出願よりもコストの削減ができる。
・ 更新や住所変更等の手続きを一括で行うことができ、商標管理が容易である。
・ EU加盟国の一国で使用していれば、不使用による取消を免れることができる。
デメリット
・ 拒絶となった国を部分的に削除することはできないため、1ヵ国でも登録できない国があると、EUTM全体が拒絶される。
・ 相対的拒絶理由の審査が行われないため、同一・類似の商標登録が多く存在する。先行類似商標が存在しても登録になるかどうかは、先行類似商標の権利者が異議申立てをするかどうかに委ねられるため、異議申立を受ける潜在的危険性が高い。
・ 商標権は、国ごとに譲渡することはできず、全加盟国一括の譲渡となる。
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